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2004-11-12

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判例

季刊刑事弁護原稿

 事件の概略

 送致事実の概要は、少年A(16歳。高校1年生)が、2004年5月20日午後4時25分ころ、高校からの下校途中に、奈良県T市内の路上で、同じく下校中の被害者X(中学2年生)に対し、背後からXの口を両手で塞ぎ、下着や臀部を触ろうとXのスカートを引き裂いたり、Xの顔面を手拳で殴打したりするなどの暴行を加え、Xのパンツの上から臀部を触るなどのわいせつ行為を行い、その際に、Xに加療約1週間の傷害を負わせたとするものである。
 事件発生から1週間後の5月26日、Aは、通学中に任意同行を求められ地元の警察署へ出頭させられた後、同日午後に逮捕された。Aは、任意同行直後は、本件、及び本件の20分後に本件の犯行現場から約100mと近接した場所で起こったわいせつ事件(第2事件)も含めて自らの犯行を認める内容の供述をしている。
 当職は、同月27日夜、Aの父親からの依頼で、Aに接見することになったが、この時点では、Aは涙を流すばかりで満足なコミュニケーションを取ることができなかった。しかし、同年6月2日の面会時に、Aは、本件について「僕はやっていない。誰も信じてくれない」と犯行を否認するに至った。
 ここから当職の本格的な付添人としての活動が始まった。同月4日には、奈良家庭裁判所に送致されているので、実質的に本格的な活動を開始したのは送致直前からであったと言って良い。
 なお、病名は不処分決定後に判明したのであるが、Aは、心身の発達に障害がある影響で、16歳にしては非常に小柄であり、また家族以外の第三者と会話をすることがほとんどできない。上記の発言にしても、何度も試みた末にようやく発することができたものである。

 付添人活動の経過

  〜送致記録の検討〜

 当職は、早急に家裁送致記録を謄写し、Aの父親をはじめとするAの家族とともに記録の検討に入った。A自身は、当時の状況や取調べの時の状況をほとんど付添人に伝えることができない。そこで、付添人が、記録の内容を精査し、事件当日に関する家族の記憶を照らし合わせながら、少年の主張を裏付ける事実を探し出すという格好になった。
 その結果、本件の捜査には幾つかの問題点、つまりAの主張を裏付ける事情があることが分かってきた。
 まず1点目であるが、?犯人の身長である。被害者Xの調書では、犯人の身長は「160?〜165?」とされていた。X自身の身長が160?であるので、自分よりも少し高いという認識であったのだろう。しかし、前記のとおり、Aは非常に小柄で身長は150?ぎりぎりであった。実に10?〜15?の差である。犯行再現写真を見ても、少年が非常に小柄である為、被害者役が極めて窮屈そうにしている。
 2点目は、?5月20日午後4時25分ころには、T市内では、雨が降っており、Xの供述でも、犯人は傘を差していたことになっていた。しかし、Aは傘を差して自転車を運転することができないので、通学時には傘は持参したことがなかった。これは、家族が真っ先に指摘した点である。
 さらに、?少年の供述内容、特に事件の核心部分であるわいせつ行為の内容に関する部分が、合理的な理由もなく変遷していることが分かった。つまり、Aは逮捕時(5月26日)には「女の子のパンツの中に右手を入れて、女の子の右のお尻を触りました」と供述したことにされていたものが、5月31日には「女の子のパンツの上端から右手を中に入れて。女の子の左のお尻を撫でるように触りました。この前は、女の子の右のお尻を触ったと言いましたが、左のお尻の間違いでした。パンツの上からとは違います。パンツの中へ手を入れてお尻を触りました。お尻は丸々して可愛かったです。このことは本当です」となっていた。ところが、6月2日には、問答式の調書が作成されており、「(問)相手の女の子は、手で直接お尻を触られていないと言っているが、君は本当にパンツの中に手を入れて触ったのか。(答)はい、今まで説明したように、パンツの中に右手を入れてお尻を触りました。柔らかくてお尻の感触でした。でも丸くなったお尻の下の方と違います。お尻の上の方で腰に近い方でした」となっていた。
 一方で、?Aを犯人と特定する証拠としてX、及びXの母親Y(第2事件の犯人を目撃している)の犯人識別供述があるのだが、いずれも、警察署で何の前提もなくいきなり「単独面通し」を行った上でのものであった。そもそも、少年が犯人とされたのも、本件事件後、Yにおいて犯行現場近くを通りかかる高校生の中から「何か違う雰囲気」を感じたことがあるAを選び出したことに端を発している。本件事件には、目撃者Hが存在したのであるが、何故か同人の調書は作成されていなかった。
 なお、ここで当職は、当事務所の石川量堂弁護士