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2020-10-13

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判例

農地の賃料の逆ざや解消を認めた広島高裁判決について

 本訴訟は、広島県内の市街化区域内に農地を所有する方が、毎年、農地の賃料の5~10倍の固定資産税等の支払を余儀なくされるという事案に関して、農地法18条に基づき、農業委員会に対し、賃貸借契約の解約申入の許可を求めたところ、これを不許可とされたため、その取消を求めたものです。
 市街化区域内の農地にかかる固定資産税等の金額が、その賃料を上回ってしまう状態、いわゆる「逆ざや」と呼ばれる状態の解消の方法としては、賃貸借契約を解除する方法の他に、端的に農地の賃料を固定資産税等の金額に見合った水準まで引き上げるという方法が考えられます。しかし、この方法は、最高裁判決(最判平成13年3月28日民集55巻2号611頁)によって否定されています。そこで、「逆ざや」を解消するための窮余の策として、本訴訟の提起しました。
 広島高裁令和2年9月28日判決は、逆ざやの程度が大きく、一方で、仮に解除を認めたとしても賃借人の生活に与える影響はわずかであるような場合には、適当な離作料の支払いを条件として、賃貸借契約の解除を認めることができると判断しました。この離作料も、宅地を前提としたものではなく、あくまで農業所得を基礎としたものにとどまります。この論点に関する過去の判例はほとんどなく、貴重な判断となりました。
 なお、この判例にかかる事案は、広島県内のものです。奈良県の場合、広島県の場合と異なり、生産緑地地区の指定が一定進んでおります。生産緑地地区の指定を敢えて受けなかった場合にはどうなるのかについては、さらなる裁判所による判断が待たれます。
 この事案は、兒玉修一弁護士が担当しました。