契約の「解除」(弁護士井上泰幸)

 企業活動、あるいは日常生活において様々な契約をしていると思います。今回は、契約の解除に関する民法のルールを裁判例も踏まえながら、簡単にご紹介したいと思います。

 例えば、「商品を売る契約をしたが、代金が支払われないので、商品を他のところに売りたい。」という場合を考えてみましょう。このような場合には、「○年○月○日までに代金を支払わないと解除する。」と言う(これを「催告」といいます。)ことによって、その期限までに代金が支払われない場合には解除できます(民法541条本文)。購入者が代金を支払わないと明言している場合などは、催告なしで解除できます(542条)。

 ただし、債務の不履行が軽微な場合には解除することができません(541条但書)。どのような場合が軽微といえるのでしょうか。

 実は、この条文は、2020年4月に債権法分野の民法改正で改正された条文です。従来は、債務不履行の解除には、債務者に落ち度があること(これを「帰責事由」といいます。)が必要とされていました。しかし、解除は、落ち度に対する制裁ではなく、契約の拘束から当事者を解放させるものという考え方に基づき、解除の際に、落ち度は必要でなくなりました。それとともに、従来裁判例で示されていた債務の不履行が軽微な場合には解除できないというルールが条文に明記されました。従来の裁判例ですが、最高裁では、土地の売買契約を締結に関して、売主は、買主が当該土地にかかる税金を支払わなかったことを理由に契約を解除することはできないと判断したものがあります(最高裁昭和36年11月21日)。

 軽微かどうかというのは評価ですので、個別のケースによって検討が必要ですが、私が代理人を務めた事案でも、この裁判例に基づき主張を組み立てて有利な結果となったことがあります。

 他にも解除については、スポーツ施設付きのマンションの売買契約においてスポーツ施設(プール)が使えない場合に解除できるのかということが問題となり、解除できると判断した最高裁判例があります(最高裁平成8年11月12日)。この裁判例は佐用ゴルフ倶楽部の事案で興味深い内容なのですが、詳細は、また別の機会に紹介します。

 企業活動における契約では、解除についても契約書に定めることが多いと思います。ご紹介のとおり、解除のルールは民法改正により変更されましたが、どのような場合に解除できるのか、解除するためにどのような手続を経なければならないかは契約においてある程度自由に定めることができます。

 解除についてトラブルとなった場合に限らず、契約書を作成する際にも、私たちがお力になれることもありますので、お気軽にご相談ください。