レスキュー商法被害について (弁護士 幸田直樹)
1 レスキュー商法とは?
日常生活のなかで、水道トラブルや、害虫発生、鍵のトラブルなど、緊急のトラブルが生じることがあります。その時、急いで専門業者に連絡し、対応してもらいたいところですが、そのような場面だからこそ生じてしまう業者とのトラブルをご存じでしょうか?
レスキュー商法被害などとも言われますが、インターネットで急いで業者を探すと、「トラブル解決 1000円~」のように、極めて低額で解決可能に見えるものの、実際には10万円以上、場合によっては数十万円もの費用が請求され、トラブルとなるケースです。
本来であれば、修理等をお願いする前に、しっかりと作業見込みや金額の見積りを業者と協議したうえで、契約して作業を進めてもらうべきです。
しかし、急なトラブル発生で、焦ってしまっていたり、業者に来てもらっているので作業をやめるように言えなかったり、作業途中ですでに費用が発生していると思い、トラブルが解決しないとすでにした作業が無駄になってしまうという心理に陥ってしまったりして、なかなか慎重に契約するという形にならないことも多く、トラブルが後を絶ちません。
2 クーリングオフでの解決方法
そのようなトラブルになってしまった場合の解決方法の一つが、いわゆるクーリングオフです。
クーリングオフは、特定商取引法という法律に定められている訪問販売という類型の場合に主張できる契約解消の方法です。
この点、業者側からは、消費者が自宅に来るように請求した場合には、クーリングオフできないはずだという主張がされる場合があります。
確かに、特定商取引法26条6項には、「その住居において売買契約若しくは役務提供契約の申込みをし又は売買契約若しくは役務提供契約を締結することを請求した者に対して行う訪問販売」については、クーリングオフができない旨定められています。
このような定めがあるのは、あらかじめ明確に契約を締結する意思がある人の場合、その内容の契約締結をする場合は「不意打ち」とはいえないから、クーリングオフは必要ないという発想です。
しかし、上記のような価格のトラブルになる多くの事案では、業者を呼ぶ前には、価格も作業内容も全く決まっていないのではないでしょうか。
価格も作業内容も決まっていないのに「とにかく契約をする意思だけある」という人はいませんので、そもそも、あらかじめ明確に契約を締結する意思があったとはいえないとされています。この点、消費者庁「訪問販売等の適用除外に関するQ&A」でも同様の解釈が記載されています。
3 デジタルプラットホーム経営会社への責任追及
また、このような価格のトラブルになる場合のひとつの要素として、インターネット上の広告を行っている業者と実際に修理に来る業者が別になっており、この点消費者の認識と食い違っているという点もあります。
そこで、最近、インターネット上の広告をしている業者(デジタルプラットホーム業者)と実際の修理業者の双方に不法行為責任を認めた裁判例があります。
京都地方裁判所にて令和6年1月19日に出された判決では、次のように判断されています。
まず、消費生活センターへの苦情内容、件数などから、ウェブサイト上の表示とは異なる高額な代金を請求された事案が多いことを踏まえて、顧客の具体的な事情にかかわらず、顧客に高額な代金を請求することが日常的に行われていたことが伺えると認定し、修理業者に対して、「家庭の水回りの工事にはどのような作業が必要であるか、どの程度の費用がかかるのかは一般人では判断するのが困難」、「家庭の水回りのトラブルは早急に修理しなければ家人に著しい不便が生じるものであり、原告らが上記被告らの説明に納得できなくても、別の修理業者に依頼することは著しく困難な状況」としたうえで、「一部でも作業を実施することで、契約を締結しなくてもその分の費用を支払う必要がある」と思わせたり、契約締結を断れば、修理は中途半端に終ってしまうのに費用は一定額支払うことになるという状況のもと、実質的に断ることができない状態にあったなどとして、消費者と契約締結させたことに不法行為責任を認めました。
そのうえで、インターネット上の広告も含めて、それぞれ重要な役割を果たし、相互に協力し補完する関係にあったとして、デジタルプラットホーム経営会社にも共同不法行為が認められています。
業者に対して支払済みで、しかも、作業業者が零細事業主の場合には、支払い能力などの問題もあって、実質的な解決のために、共同不法行為が成立するか検討することになります。
4 最後に
このようにレスキュー商法については、いろいろなトラブルが発生するとともに、いくつかの解決方法も存在しています。
あまりにも高額な請求がきた場合は、直ちに支払うのではなく、一呼吸おいて、弁護士や消費生活センターなどの専門家に相談のうえ、対応を考えて見てください。