相続人がいない場合にはどうすればいいのか?(弁護士井上泰幸)

 相続財産管理人という制度をご存知でしょうか。

 例えば、亡くなった人に誰も相続人がいない場合や相続人が全員相続放棄をしてしまった場合などに、裁判所が選任します。民法によると、相続人がいることが明らかでない場合に裁判所に選任を請求することができます(民法952条)。相続人がいないという場合には、手がかりも少ないので、亡くなった場所やその方の所有していた物の中から、どのように清算していくか考えることになります。遺品を見るのは少し気が引けるのですが、どのような生活をされていたのだろうかなど思いを馳せることもあり、興味深いです。

 2023年4月に改正民法が施行され、この制度が改正されました。民法改正といえば、2019年7月に相続法分野の大きな改正、2020年4月に債権法分野の大きな改正があったところですが、今回は、共有制度の見直しや所有者不明土地管理制度の創設などが行われました。

 今回の改正の中の一つが相続財産管理人制度の見直しです。改正前の制度では、「相続財産管理人」という名称でしたが、改正後は「相続財産清算人」という名称になりました(ちなみに、改正法でも「相続財産管理人」という言葉自体はあるのですが、別の制度になっています(民法897条の2))。

 今回の改正の大きなポイントは、相続財産清算人が選任されてから終了までの期間が短縮されたことです。改正前は、選任されたことや債権者がいないか、相続人がいないかなど3回の公告を順番にしなければならず、選任から終了まで1年以上かかるものでしたが、改正により、同時に公告できるようになったことで、期間が短縮されました。

 さて、民法というのは最もメジャーな法律のひとつですが、近年度々改正されています。2019年の改正のときは「遺留分減殺請求」から「遺留分侵害額請求」へ、2020年の改正のときは「瑕疵担保責任」が「契約不適合責任」へ、名称の変更は最初は戸惑いますが、徐々に定着していきます。今回の「相続財産清算人」というのもまだ私の中では定着していませんが、少しずつ浸透していくのだと思います。

 私たちも日々知識をアップデートさせてご相談・ご依頼に答えられるように研鑽しなければと改めて感じます。