奈良教育大学附属小学校不当出向命令無効確認訴訟につい(弁護士 兒 玉 修 一)

2024年4月1日、奈良教育大学附属小学校(以下「附小」と言います)に勤務する3名の教諭が、奈良市内の小学校へ出向を命じられました。これに対して、同年6月12日、教諭ら3名は、この出向命令は無効ではないかとして、奈良地方裁判所に提訴することになりました。私は、3名の代理人に就任しています。

  さて、附小については、この間、毛筆の授業のないことがけしからん!、学習指導要領に反した授業をしている!などといった一方的な報道がなされてきました。今回の出向は、このことへの報復ではないかといった見方もされています。
  しかし、そもそも学習指導要領って一言一句守らないといけないものなのか、といった根本的な疑問からはじまり、違反って本当にあったのか、もともと、教育学部に附属する小学校というのは、児童に対する教育を研究することを目的としており、様々な実験的な教育を行うことが期待されているのではないのか、さらに、児童やその保護者も、そのことは折込済みで入学しているんじゃないのかといった疑問が次々と湧き起こります。
  実際、児童・保護者から附小での教育に不満が寄せられていたわけでもなく、むしろ、今回の出向命令に対しては反対の声が上がっています。
  また、労働法の世界で考えても、出向を拒否している労働者に対し、どういった場合に出向を命じることができるのかという論点があります。特に附小の教諭には、これまでは民間の事業所と同じ労働基準法、労働契約法が適用されていました。ところが、出向先の奈良市内の小学校の教諭は、みな公務員で、地方公務員法や悪名高い「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」も適用されています。今回の場合、全く、法体系のことなる学校に、慎重な吟味もなく出向させています。実際、これまで奈良教育大学と奈良県教育委員会が締結していた人事交流に関する覚書は、一旦、それまでの労働契約関係を終了し、新たに任用されることが前提の枠組みだったのですが、今回、慌てて変更されています。
  さらに、今回の出向には、文部科学省からの圧力が見え隠れしています。本当に必要があってなされた出向であれば、出向の内示をしてから、奈良県教育委員会との覚書を改訂するような強引なことはしないのでないでしょうか。

  教員の労働をめぐっては、長時間労働をどのように是正していくのかなどの問題が山積しており、附小も例外ではありません。しかし、今回の出向は、むしろそれ以前の問題です。訴訟はこれからですが、何とか良い解決に結びつけたいと思っています。