令和5年の性犯罪に関する法改正(2)(弁護士 松ケ下裕介)

1 はじめに

前回は、性犯罪関係の規定の改正点について紹介しましたが、今回は、新しく加えられた規定について紹介したいと思います。

2 新設された規定について(改正のポイント)

(1) 面会要求等罪の新設                       

     性的な目的で子供を手懐け、性的行為に及ぶことを防止するため、16歳未満の者に対する面会要求等の罪(刑法182条)が新設されました。具体的には、下記の条文の通りですが、わいせつ目的で、脅したり、嘘をついたり、誘惑したりなどして、会うことを要求すると犯罪になります(刑法182条1項各号)。

また、実際に会った者は、より重い罪となります(同条2項)。

さらに、性的写真や性行為の動画を送信させた場合についても犯罪となります(同条3項)。

(2) 性的姿態等撮影罪等の新設

   今まで、いわゆる盗撮行為を取り締まる際は、刑法など法律による規制がなかったことから、各都道府県の迷惑防止条例や児童買春等処罰法のひそかに児童ポルノを製造する罪などに基づいていました。

しかし、迷惑防止条例は、都道府県ごとに処罰対象が異なっており、また、児童ポルノ製造罪も、保護の対象は児童のみであり、条例や法律だけでは対応しきれない事例も存在していました。

そこで、今回、盗撮行為を規制する法律である「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」が新たに制定されました。この法律が制定されたことで、各都道府県の条例で定められていた盗撮行為等の処罰が全国一律になり、刑の重さについても、厳罰化(3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金)されました。

規制される行為としては、具体的には、性的な部位や下着を撮影する行為(同法2条1項1号イ)、撮影された映像や画像の提供する行為(同法3条1項)や保管する行為(同法4条)等が挙げられます。  

   また、今回の新設以前においては、法的根拠なく、性的画像については、被疑者・被告人の同意のもとで削除してから押収物の還付手続きがなされ、それに応じなければ強制することができませんでしたが、上記法律では、電磁的記録の削除に関する行政処分の手続きなども定められ、対象の電磁的記録を削除できるようになりました。

2 雑感

   以上のように、以前に比べ、法律の要件がより明確に規定されると同時に、拡張され、今まで処罰されない行為についても、処罰できるようになり、性的自由や性的自己決定権をより保護することにはなり得ます。他方でどのような行為が上記法律に違反するかは一概に判断できないことも想定され、今後の事例の蓄積を待つ必要もありそうです。

このように、新たな法律ができたり、改正がなされたりしていきますが、私たちも日々

研鑽して知識をアップデートし、皆様の疑問やご要望に答えられるようにしていきたいと思っております。

追加された条文及び法律について

刑法第182条(16歳未満の者に対する面会要求等)

1項 わいせつの目的で、16歳未満の者に対し、次の各号に掲げるいずれかの行為をした者(当該16歳未満の者が13歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)は、1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する。

1号 威迫し、偽計を用い又は誘惑して面会を要求すること。

2号 拒まれたにもかかわらず、反復して面会を要求すること。

3号 金銭その他の利益を供与し、又はその申込み若しくは約束をして面会を要求すること。

2項 前項の罪を犯し、よってわいせつの目的で当該16歳未満の者と面会をした者は、2年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金に処する。

3項 16歳未満の者に対し、次の各号に掲げるいずれかの行為(第2号に掲げる行為については、当該行為をさせることがわいせつなものであるものに限る。)を要求した者(当該16歳未満の者が13歳以上である場合については、その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者に限る。)は、1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する。

1号 性交、肛門性交又は口腔性交をする姿態をとってその映像を送信すること。

2号 前号に掲げるもののほか、膣又は肛門に身体の一部(陰茎を除く。)又は物を挿入し又は挿入される姿態、性的な部位(性器若しくは肛門若しくはこれらの周辺部、臀部又は胸部をいう。以下この号において同じ。)を触り又は触られる姿態、性的な部位を露出した姿態その他の姿態をとってその映像を送信すること

性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電

磁的記録の消去等に関する法律

第2条(性的姿態等撮影)

1項 次の各号のいずれかに掲げる行為をした者は、3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金に処する。

1号 正当な理由がないのに、ひそかに、次に掲げる姿態等(以下「性的姿態等」という。)のうち、人が通常衣服を着けている場所において不特定又は多数の者の目に触れることを認識しながら自ら露出し又はとっているものを除いたもの(以下「対象性的姿態等」という。)を撮影する行為

イ 人の性的な部位(性器若しくは肛門若しくはこれらの周辺部、臀部又は胸部をいう。以下このイにおいて同じ。)又は人が身に着けている下着(通常衣服で覆われており、かつ、性的な部位を覆うのに用いられるものに限る。)のうち現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分

ロ イに掲げるもののほか、わいせつな行為又は性交等(刑法(明治40年法律第45号)第177条第1項に規定する性交等をいう。)がされている間における人の姿態

2号 刑法第176条第1項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、人の対象性的姿態等を撮影する行為

3号 行為の性質が性的なものではないとの誤信をさせ、若しくは特定の者以外の者が閲覧しないとの誤信をさせ、又はそれらの誤信をしていることに乗じて、人の対象性的姿態等を撮影する行為

4号 正当な理由がないのに、13歳未満の者を対象として、その性的姿態等を撮影し、又は13歳以上16歳未満の者を対象として、当該者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者が、その性的姿態等を撮影する行為

2項 前項の罪の未遂は、罰する。

3項 前二項の規定は、刑法第176条及び第179条第1項の規定の適用を妨げない。

第3条(性的影像記録提供等)

1項 性的影像記録(前条第1項各号に掲げる行為若しくは第6条第1項の行為により生成された電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)その他の記録又は当該記録 の全部若しくは一部(対象性的姿態等(前条第1項第4号に掲げる行為により生成された電磁的記録その他の記録又は第5条第1項第4号に掲げる行為により同項第1号に規定する影像送信をされた影像を記録する行為により生成された電磁的記録その他の記録にあっては、性的姿態等)の影像が記録された部分に 限る。)を複写したものをいう。以下同じ。)を提供した者は、3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金に処する。

2項 性的影像記録を不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者は、5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

第4条(性的影像記録保管)

前条の行為をする目的で、性的影像記録を保管した者は、2年以下の拘禁刑又は200万円以下の罰金に処する。

第5条(性的姿態等影像送信)

1項 不特定又は多数の者に対し、次の各号のいずれかに掲げる行為をした者は、5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

1号 正当な理由がないのに、送信されることの情を知らない者の対象性的姿態等の影像(性的影像記録に 係るものを除く。次号及び第3号において同じ。)の影像送信(電気通信回線を通じて、影像を送ることをいう。以下同じ。)をする行為

2号 刑法第176条第1項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、人の対象性的姿態等の影像の影像送信をする行為

3号 行為の性質が性的なものではないとの誤信をさせ、若しくは不特定若しくは多数の者に送信されないとの誤信をさせ、又はそれらの誤信をしていることに乗じて、人の対象性的姿態等の影像の影像送信を する行為

4号 正当な理由がないのに、13歳未満の者の性的姿態等の影像(性的影像記録に係るものを除く。以下この号において同じ。)の影像送信をし、又は13歳以上16歳未満の者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者が、当該13歳以上16歳未満の者の性的姿態等の影像の影像送信をする行為

2項 情を知って、不特定又は多数の者に対し、前項各号のいずれかに掲げる行為により影像送信をされた影像の影像送信をした者も、同項と同様とする。

3項 前二項の規定は、刑法第176条及び第179条第1項の規定の適用を妨げない。

第6条(性的姿態等影像記録)

1項 情を知って、前条第1項各号のいずれかに掲げる行為により影像送信をされた影像を記録した者は、3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金に処する。

2項 前項の罪の未遂は、罰する。